赤坂タイムラー

策士─小泉純一郎の腹

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アカサカ ヒカル

6日夕、自民党参院幹事長、片山虎之助は記者団の質問に対して、こう答えた。
「厳しい、かなり厳しい。もうやり尽くした感がある。知恵は出し尽くした。だが、あとわずかな時間、あらゆる可能性を探る。何か良い知恵が出てくるといいんだが──」
8日にも予定されている郵政民営化法案の採決が、5日夜の中曽根文弘(自民・亀井派参院会長)の発言によっていよいよ否決の色を強く帯びてきたのを受けてのコメントだ。
今朝の報道によると、自民・森派会長、森喜朗(前総理)は、現・内閣総理大臣、小泉純一郎と6日夜1時間半にわたって会談した。会談を終え、カメラとマイクの砲列の前に立った森の顔には諦めというよりは意気消沈といった色が濃くにじみ出ていた。
「私に対してこういう対応ですよ。別に飲みたくも食べたくもないけど──」
深い溜息とともにこう言った森は、ご存知の通り小泉の出身派閥である森派の会長だ。見てくれから受ける印象は大きく違う2人は、森の方が5つ年上で、当選回数でも1回多いが、2人の下積み当時の福田派において多くの苦楽を共にし、兄弟のような仲であったに違いない。
短命ではあったが森が小泉の前に総理だった時期には、森派会長を務め、常に森を守ることを通してきたのが小泉だ。長い政治家生活の中でも、お互いの節目節目に助け合ってきた2人なのである。
そんな兄貴分の森と、日中ならいざ知らず夕食時に会っていて、食事も供さないというのは、異例な出来事であったのだろう。森はこう続けた──
「(私も)さじを投げたよ。変人変人というが、あれは変人以上ですよ。まぁ、それ以上は申しませんが。」
前日(5日)には、否決の場合に衆院を解散するという小泉の姿勢を苦慮し、その時は森派の会長を辞するとまで言っていただけに、直接会談しても頑として耳を貸さない小泉の態度になす術なしということだろう。
会長ポストそれ自体にはさしたる重みもない。が、今となっては他に賭すものもない森である。むしろ一般的な解釈を超え、バトンを渡しあった2人の間だからこその『会長の椅子』の意味を小泉に分かって欲しかったのだろう。
かくして、片山の一縷の望みも断たれたかのように見える。
──が、本当にそうだろうか。
優秀な参謀とも協議の上のこととは思うが、やはり小泉純一郎という男は大した策士であろう。
広島の被爆60周年にあたるこの日、朝から反対派の司令塔・亀井静香の地元でもある広島を訪れた小泉の半日は、解散に対する硬軟姿勢を乱高下させ、マスコミのみならず多くの与党議員を惑わすこととなった。この結果、表面的には否決を目指す議員らの結束を強めたかのようにも見えるが、それに対する自民・執行部の焦燥感にも拍車をかけている。
つまり、これを受けたのが片山発言であり、森・小泉会談の前段でもあるのだ。
すでに現時点において、マスコミは解散~総選挙という流れを想定した報道に大きく傾いているが、自民党内での(郵政)賛成・反対両派とも解散など望んでいないのである。
にもかかわらず、これまで反対派が攻勢を強めてきた背景には、『(解散は)口だけだろう』という想定があった。
こと政局ともなると、為政者の腹はその表層だけをとって判別しにくいものである。反対派の希望的観測が陰りはじめたことを、おそらく今現在、多くの反対派議員が感じとっていることだろう。
状況的にも立場的にも自ら詳らかにするわけにはいかない小泉は、5日夜には「(反対派は私の)腹を分かってない」6日昼には(解散について)「状況により的確に判断する。──が、腹は固まっている」と繰り返している。
小泉の腹は一つ。──郵政法案の可決だ。
大抵抗の嵐の中、この難題を貫き通すのに正攻法で通ずるはずもない。
腹は解散ではなく、あくまで可決だとするならば、大役者・森を使ってでも『(解散は)口だけじゃない』というメッセージを、読みの浅い議員達に伝える必要があったのである。